Japanese(i)
1 ここに病める者あり、ラザロと云ふ、マリヤとその姉妹マルタとの村ベタニヤの人なり。 2 此のマリヤは、主に香油をぬり、頭髮にて御足を拭ひし者にして、病めるラザロはその兄弟なり。 3 姉妹ら人をイエスに遣して『主、視よ、なんぢの愛し給ふもの病めり』と言はしむ。 4 之を聞きてイエス言ひ給ふ『この病は死に至らず、神の榮光のため、神の子のこれに由りて榮光を受けんためなり』 5 イエスはマルタと、その姉妹と、ラザロとを愛し給へり。 6 ラザロの病みたるを聞きて、その居給ひし處になほ二日とどまり、 7 而してのち弟子たちに言ひ給ふ『われら復ユダヤに往くべし』 8 弟子たち言ふ『ラビ、この程もユダヤ人、なんぢを石にて撃たんとせしに、復かしこに往き給ふか』 9 イエス答へたまふ『一日に十二時あるならずや、人もし晝あるかば、此の世の光を見るゆゑに躓くことなし。 10 夜あるかば、光その人になき故に躓くなり』 11 かく言ひて復その後いひ給ふ『われらの友ラザロ眠れり、されど我よび起さん爲に往くなり』 12 弟子たち言ふ『主よ、眠れるならば癒ゆべし』 13 イエスは彼が死にたることを言ひ給ひしなれど、弟子たちは寢ねて眠れるを言ひ給ふと思へるなり。 14 ここにイエス明白に言ひ給ふ『ラザロは死にたり。 15 我かしこに居らざりし事を汝等のために喜ぶ、汝等をして信ぜしめんとてなり。されど我ら今その許に往くべし』 16 デドモと稱ふるトマス、他の弟子たちに言ふ『われらも往きて彼と共に死ぬべし』 17 さてイエス來り見給へば、ラザロの墓にあること既に四日なりき。 18 ベタニヤはエルサレムに近くして、二十五丁ばかりの距離なるが、 19 數多のユダヤ人、マルタとマリヤとをその兄弟の事につき慰めんとて來れり。 20 マルタはイエス來給ふと聞きて出で迎へたれど、マリヤはなほ家に坐し居たり。 21 マルタ、イエスに言ふ『主よ、もし此處に在ししならば、我が兄弟は死なざりしものを。 22 されど今にても我は知る、何事を神に願ひ給ふとも、神は與へ給はん』 23 イエス言ひ給ふ『なんぢの兄弟は甦へるべし』 24 マルタ言ふ『をはりの日、復活のときに甦へるべきを知る』 25 イエス言ひ給ふ『我は復活なり、生命なり、我を信ずる者は死ぬとも生きん。 26 凡そ生きて我を信ずる者は、永遠に死なざるべし。汝これを信ずるか』 27 彼いふ『主よ然り、我なんぢは世に來るべきキリスト、神の子なりと信ず』 28 かく言ひて後、ゆきて竊にその姉妹マリヤを呼びて『師きたりて汝を呼びたまふ』と言ふ。 29 マリヤ之をきき、急ぎ起ちて御許に往けり。 30 イエスは未だ村に入らず、尚マルタの迎へし處に居給ふ。 31 マリヤと共に家に居りて慰め居たるユダヤ人、その急ぎ立ちて出でゆくを見、かれは歎かんとて墓に往くと思ひて後に隨へり。 32 かくてマリヤ、イエスの居給ふ處にいたり、之を見てその足下に伏し『主よ、もし此處に在ししならば、我が兄弟は死なざりしものを』と言ふ。 33 イエスかれが泣き居り、共に來りしユダヤ人も泣き居るを見て、心を傷め悲しみて言ひ給ふ、 34 『かれを何處に置きしか』彼ら言ふ『主よ、來りて見給へ』 35 イエス涙をながし給ふ。 36 ここにユダヤ人ら言ふ『視よ、いかばかり彼を愛せしぞや』 37 その中の或者ども言ふ『盲人の目をあけし此の人にして、彼を死なざらしむること能はざりしか』 38 イエスまた心を傷めつつ墓にいたり給ふ。墓は洞にして石を置きて塞げり。 39 イエス言ひ給ふ『石を除けよ』死にし人の姉妹マルタ言ふ『主よ、彼ははや臭し、四日を經たればなり』 40 イエス言ひ給ふ『われ汝に、もし信ぜば神の榮光を見んと言ひしにあらずや』 41 ここに人々石を除けたり。イエス目を擧げて言ひたまふ『父よ、我にきき給ひしを謝す。 42 常にきき給ふを我は知る。然るに斯く言ふは、傍らに立つ群衆の爲にして、汝の我を遣し給ひしことを之に信ぜしめんとてなり』 43 斯く言ひてのち、聲高く『ラザロよ、出で來れ』と呼はり給へば、 44 死にしもの布にて足と手とを卷かれたるまま出で來る、顏も手拭にて包まれたり。イエス『これを解きて往かしめよ』と言ひ給ふ。 45 かくてマリヤの許に來りて、イエスの爲し給ひし事を見たる多くのユダヤ人、かれを信じたりしが、 46 或者はパリサイ人に往きて、イエスの爲し給ひし事を告げたり。 47 ここに祭司長・パリサイ人ら議會を開きて言ふ『われら如何に爲すべきか、此の人おほくの徴を行ふなり。 48 もし彼をこのまま捨ておかば、人々みな彼を信ぜん、而してロマ人きたりて、我らの土地と國人とを奪はん』 49 その中の一人にて此の年の大祭司なるカヤパ言ふ『なんぢら何をも知らず。 50 ひとりの人、民のために死にて、國人すべての滅びぬは、汝らの益なるを思はぬなり』 51 これは己より云へるに非ず、この年の大祭司なれば、イエスの國人のため、 52 又ただに國人の爲のみならず、散りたる神の子らを一つに集めん爲に死に給ふことを預言したるなり。 53 彼等この日よりイエスを殺さんと議れり。 54 されば此の後イエス顯にユダヤ人のなかを歩み給はず、此處を去りて、荒野にちかき處なるエフライムといふ町に往き、弟子たちと偕に其處に留りたまふ。 55 ユダヤ人の過越の祭近づきたれば、多くの人々身を潔めんとて、祭のまへに田舍よりエルサレムに上れり。 56 彼らイエスをたづね、宮に立ちて互に言ふ『なんぢら如何に思ふか、彼は祭に來らぬか』 57 祭司長・パリサイ人らは、イエスを捕へんとて、その在處を知る者あらば、告げ出づべく預て命令したりしなり。12 1 過越の祭の六日前に、イエス、ベタニヤに來り給ふ、ここは死人の中より甦へらせ給ひしラザロの居る處なり。 2 此處にてイエスのために饗宴を設け、マルタは事へ、ラザロはイエスと共に席に著ける者の中にあり。 3 マリヤは價高き混りなきナルドの香油一斤を持ち來りて、イエスの御足にぬり、己が頭髮にて御足を拭ひしに、香油のかをり家に滿ちたり。 4 御弟子の一人にて、イエスを賣らんとするイスカリオテのユダ言ふ、 5 『何ぞこの香油を三百デナリに賣りて、貧しき者に施さざる』 6 かく云へるは貧しき者を思ふ故にあらず、おのれ盜人にして、財嚢を預り、その中に納むる物を掠めゐたればなり。 7 イエス言ひ給ふ『この女の爲すに任せよ、我が葬りの日のために之を貯へたるなり。 8 貧しき者は常に汝らと偕に居れども、我は常に居らぬなり』 9 ユダヤの多くの民ども、イエスの此處に居給ふことを知りて來る、これはイエスの爲のみにあらず、死人の中より甦へらせ給ひしラザロを見んとてなり。 10 かくて祭司長ら、ラザロをも殺さんと議る。 11 彼のために多くのユダヤ人さり往きてイエスを信ぜし故なり。 12 明くる日、祭に來りし多くの民ども、イエスのエルサレムに來り給ふをきき、 13 棕梠の枝をとりて出で迎へ、『「ホサナ、讃むべきかな、主の御名によりて來る者」イスラエルの王』と呼はる。 14 イエスは小驢馬を得て之に乘り給ふ。これは録して、 15 『シオンの娘よ、懼るな。視よ、なんぢの王は驢馬の子に乘りて來り給ふ』と有るが如し。 16 弟子たちは最初これらの事を悟らざりしが、イエスの榮光を受け給ひし後に、これらの事のイエスに就きて録されたると、人々が斯く爲ししとを思ひ出せり。 17 ラザロを墓より呼び起し、死人の中より甦へらせ給ひし時に、イエスと偕に居りし群衆、證をなせり。 18 群衆のイエスを迎へたるは、かかる徴を行ひ給ひしことを聞きたるに因りてなり。 19 パリサイ人ら互に言ふ『見るべし、汝らの謀ることの益なきを。視よ、世は彼に從へり』 20 禮拜せんとて祭に上りたる者の中に、ギリシヤ人數人ありしが、 21 ガリラヤなるベツサイダのピリポに來り、請ひて言ふ『君よ、われらイエスに謁えんことを願ふ』 22 ピリポ往きてアンデレに告げ、アンデレとピリポと共に往きてイエスに告ぐ。 23 イエス答へて言ひ給ふ『人の子の榮光を受くべき時きたれり。 24 誠にまことに汝らに告ぐ、一粒の麥、地に落ちて死なずば、唯一つにて在らん、もし死なば、多くの果を結ぶべし。 25 己が生命を愛する者は、これを失ひ、この世にてその生命を憎む者は、之を保ちて永遠の生命に至るべし。 26 人もし我に事へんとせば、我に從へ、わが居る處に我に事ふる者もまた居るべし。人もし我に事ふることをせば、我が父これを貴び給はん。 27 今わが心さわぐ、われ何を言ふべきか。父よ、この時より我を救ひ給へ、されど我この爲にこの時に到れり。 28 父よ、御名の榮光をあらはし給へ』ここに天より聲いでて言ふ『われ既に榮光をあらはしたり、復さらに顯さん』 29 傍らに立てる群衆これを聞きて『雷霆鳴れり』と言ひ、ある人々は『御使かれに語れるなり』と言ふ。 30 イエス答へて言ひ給ふ『この聲の來りしは、我が爲にあらず、汝らの爲なり。 31 今この世の審判は來れり、今この世の君は逐ひ出さるべし。 32 我もし地より擧げられなば、凡ての人をわが許に引きよせん』 33 かく言ひて、己が如何なる死にて死ぬるかを示し給へり。 34 群衆こたふ『われら律法によりて、キリストは永遠に存へ給ふと聞きたるに、汝いかなれば人の子は擧げらるべしと言ふか、その人の子とは誰なるか』 35 イエス言ひ給ふ『なほ暫し光は汝らの中にあり、光のある間に歩みて、暗黒に追及かれぬやうにせよ、暗き中を歩む者は往方を知らず。 36 光の子とならんために、光のある間に光を信ぜよ』イエス此等のことを語りてのち、彼らを避けて隱れ給へり。 37 かく多くの徴を人々の前におこなひ給ひたれど、なほ彼を信ぜざりき。 38 これ預言者イザヤの言の成就せん爲なり。曰く『主よ、我らに聞きたる言を誰か信ぜし。主の御腕は誰にあらはれし』 39 彼らが信じ得ざりしは此の故なり。即ちイザヤまた云へらく、 40 『彼らの眼を暗くし、心を頑固にし給へり。これ目にて見、心にて悟り、ひるがへりて、我に醫さるる事なからん爲なり』 41 イザヤの斯く云へるは、その榮光を見し故にて、イエスに就きて語りしなり。 42 されど司たちの中にもイエスを信じたるもの多かりしが、パリサイ人の故によりて言ひ顯すことをせざりき、除名せられん事を恐れたるなり。 43 彼らは神の譽よりも人の譽を愛でしなり。 44 イエス呼はりて言ひ給ふ『われを信ずる者は我を信ずるにあらず、我を遣し給ひし者を信じ、 45 我を見る者は我を遣し給ひし者を見るなり。 46 我は光として世に來れり、すべて我を信ずる者の暗黒に居らざらん爲なり。 47 人たとひ我が言をききて守らずとも、我は之を審かず。夫わが來りしは世を審かん爲にあらず、世を救はん爲なり。 48 我を棄て我が言を受けぬ者を審く者あり、わが語れる言こそ終の日に之を審くなれ。 49 我はおのれに由りて語れるにあらず、我を遣し給ひし父みづから、我が言ふべきこと語るべきことを命じ給ひし故なり。 50 我その命令の永遠の生命たるを知る。されば我は語るに我が父の我に言ひ給ふままを語るなり』13 1 過越のまつりの前に、イエスこの世を去りて父に往くべき己が時の來れるを知り、世に在る己の者を愛して、極まで之を愛し給へり。 2 夕餐のとき、惡魔早くもシモンの子イスカリオテのユダの心に、イエスを賣らんとする思を入れたるが、 3 イエス父が萬物をおのが手にゆだね給ひしことと、己の神より出でて神に到ることを知り、 4 夕餐より起ちて上衣をぬぎ、手巾をとりて腰にまとひ、 5 尋で盥に水をいれて、弟子たちの足をあらひ、纏ひたる手巾にて之を拭ひはじめ給ふ。 6 かくてシモン・ペテロに至り給へば、彼いふ『主よ、汝わが足を洗ひ給ふか』 7 イエス答へて言ひ給ふ『わが爲すことを汝いまは知らず、後に悟るべし』 8 ペテロ言ふ『永遠に我が足をあらひ給はざれ』イエス答へ給ふ『我もし汝を洗はずば、汝われと關係なし』 9 シモン・ペテロ言ふ『主よ、わが足のみならず、手をも頭をも』 10 イエス言ひ給ふ『すでに浴したる者は足のほか洗ふを要せず、全身きよきなり。斯く汝らは潔し、されど悉とくは然らず』 11 これ己を賣る者の誰なるを知りたまふ故に『ことごとくは潔からず』と言ひ給ひしなり。 12 彼らの足をあらひ、己が上衣をとり、再び席につきて後いひ給ふ『わが汝らに爲したることを知るか。 13 なんぢら我を師また主ととなふ、然か言ふは宜なり、我は是なり。 14 我は主また師なるに、尚なんぢらの足を洗ひたれば、汝らも互に足を洗ふべきなり。 15 われ汝らに模範を示せり、わが爲ししごとく汝らも爲さんためなり。 16 誠にまことに汝らに告ぐ、僕はその主よりも大ならず。遣されたる者は之を遣す者よりも大ならず。 17 汝等これらの事を知りて之を行はば幸福なり。 18 これ汝ら凡ての者につきて言ふにあらず、我はわが選びたる者どもを知る。されど聖書に「我とともにパンを食ふ者、われに向ひて踵を擧げたり」と云へることは、必ず成就すべきなり。 19 今その事の成らぬ前に之を汝らに告ぐ、事の成らん時、わが夫なるを汝らの信ぜんためなり。 20 誠にまことに汝らに告ぐ、わが遣す者を受くる者は我をうくるなり。我を受くる者は我を遣し給ひし者を受くるなり』 21 イエス此等のことを言ひ終へて、心さわぎ證をなして言ひ給ふ『まことに誠に汝らに告ぐ、汝らの中の一人われを賣らん』 22 弟子たち互に顏を見合せ、誰につきて言ひ給ふかを訝る。 23 イエスの愛したまふ一人の弟子、イエスの御胸によりそひ居たれば、 24 シモン・ペテロ首にて示し『誰のことを言ひ給ふか、告げよ』といふ。 25 彼そのまま御胸によりかかりて『主よ、誰なるか』と言ひしに、 26 イエス答へ給ふ『わが一撮の食物を浸して與ふる者は夫なり』かくて一撮の食物を浸して、シモンの子イスカリオテのユダに與へたまふ。 27 ユダ一撮の食物を受くるや、惡魔かれに入りたり。イエス彼に言ひたまふ『なんぢが爲すことを速かに爲せ』 28 席に著きゐたる者は一人として、何故かく言ひ給ふかを知らず。 29 ある人々は、ユダが財嚢を預るによりて『祭のために要する物を買へ』とイエスの言ひ給へるか、また貧しき者に何か施さしめ給ふならんと思へり。 30 ユダ一撮の食物を受くるや、直ちに出づ、時は夜なりき。 31 ユダの出でし後、イエス言ひ給ふ『今や人の子、榮光をうく、神も彼によりて榮光をうけ給ふ。 32 神かれに由りて榮光をうけ給はば、神も己によりて彼に榮光を與へ給はん、直ちに與へ給ふべし。 33 若子よ、我なほ暫く汝らと偕にあり、汝らは我を尋ねん、されど曾てユダヤ人に「なんぢらは我が往く處に來ること能はず」と言ひし如く、今汝らにも然か言ふなり。 34 われ新しき誡命を汝らに與ふ、なんぢら相愛すべし。わが汝らを愛せしごとく、汝らも相愛すべし。 35 互に相愛する事をせば、之によりて人みな汝らの我が弟子たるを知らん』 36 シモン・ペテロ言ふ『主よ、何處にゆき給ふか』イエス答へ給ふ『わが往く處に、なんぢ今は從ふこと能はず。されど後に從はん』 37 ペテロ言ふ『主よ、いま從ふこと能はぬは何故ぞ、我は汝のために生命を棄てん』 38 イエス答へ給ふ『なんぢ我がために生命を棄つるか、誠にまことに汝に告ぐ、なんぢ三度われを否むまでは、鷄鳴かざるべし』14 1 『なんぢら心を騷がすな、神を信じ、また我を信ぜよ。 2 わが父の家には住處おほし、然らずば我かねて汝らに告げしならん。われ汝等のために處を備へに往く。 3 もし往きて汝らの爲に處を備へば、復きたりて汝らを我がもとに迎へん、わが居るところに汝らも居らん爲なり。 4 汝らは我が往くところに至る道を知る』 5 トマス言ふ『主よ、何處にゆき給ふかを知らず、いかでその道を知らんや』 6 イエス彼に言ひ給ふ『われは道なり、眞理なり、生命なり、我に由らでは誰にても父の御許にいたる者なし。 7 汝等もし我を知りたらば、我が父をも知りしならん。今より汝ら之を知る、既に之を見たり』 8 ピリポ言ふ『主よ、父を我らに示し給へ、さらば足れり』 9 イエス言ひ給ふ『ピリポ、我かく久しく汝らと偕に居りしに、我を知らぬか。我を見し者は父を見しなり、如何なれば「我らに父を示せ」と言ふか。 10 我の父に居り、父の我に居給ふことを信ぜぬか。わが汝等にいふ言は、己によりて語るにあらず、父われに在して御業をおこなひ給ふなり。 11 わが言ふことを信ぜよ、我は父にをり、父は我に居給ふなり。もし信ぜずば、我が業によりて信ぜよ。 12 誠にまことに汝らに告ぐ、我を信ずる者は我がなす業をなさん、かつ之よりも大なる業をなすべし、われ父に往けばなり。 13 汝らが我が名によりて願ふことは、我みな之を爲さん、父、子によりて榮光を受け給はんためなり。 14 何事にても我が名によりて我に願はば、我これを成すべし。 15 汝等もし我を愛せば、我が誡命を守らん。 16 われ父に請はん、父は他に助主をあたへて、永遠に汝らと偕に居らしめ給ふべし。 17 これは眞理の御靈なり、世はこれを受くること能はず、これを見ず、また知らぬに因る。なんぢらは之を知る、彼は汝らと偕に居り、また汝らの中に居給ふべければなり。 18 我なんぢらを遣して孤兒とはせず、汝らに來るなり。 19 暫くせば世は復われを見ず、されど汝らは我を見る、われ活くれば汝らも活くべければなり。 20 その日には、我わが父に居り、なんぢら我に居り、われ汝らに居ることを汝ら知らん。 21 わが誡命を保ちて之を守るものは、即ち我を愛する者なり。我を愛する者は我が父に愛せられん、我も之を愛し、之に己を顯すべし』 22 イスカリオテならぬユダ言ふ『主よ、何故おのれを我らに顯して、世には顯し給はぬか』 23 イエス答へて言ひ給ふ『人もし我を愛せば、わが言を守らん、わが父これを愛し、かつ我等その許に來りて住處を之とともにせん。 24 我を愛せぬ者は、わが言を守らず。汝らが聞くところの言は、わが言にあらず、我を遣し給ひし父の言なり。 25 此等のことは我なんぢらと偕にありて語りしが、 26 助主すなはちわが名によりて父の遣したまふ聖靈は、汝らに萬の事ををしへ、又すべて我が汝らに言ひしことを思ひ出さしむべし。 27 われ平安を汝らに遺す、わが平安を汝らに與ふ。わが與ふるは世の與ふる如くならず、なんぢら心を騷がすな、また懼るな。 28 「われ往きて汝らに來るなり」と云ひしを汝ら既に聞けり。もし我を愛せば、父にわが往くを喜ぶべきなり、父は我よりも大なるに因る。 29 今その事の成らぬ前に、これを汝らに告げたり、事の成らんとき汝らの信ぜんためなり。 30 今より後われ汝らと多く語らじ、この世の君きたる故なり。彼は我に對して何の權もなし、 31 されど斯くなるは、我の、父を愛し、父の命じ給ふところに遵ひて行ふことを、世の知らん爲なり。起きよ、いざ此處を去るべし。15 1 我は眞の葡萄の樹、わが父は農夫なり。 2 おほよそ我にありて果を結ばぬ枝は、父これを除き、果を結ぶものは、いよいよ果を結ばせん爲に之を潔めたまふ。 3 汝らは既に潔し、わが語りたる言に因りてなり。 4 我に居れ、さらば我なんぢらに居らん。枝もし樹に居らずば、自ら果を結ぶこと能はぬごとく、汝らも我に居らずば亦然り。 5 我は葡萄の樹、なんぢらは枝なり。人もし我にをり、我また彼にをらば、多くの果を結ぶべし。汝ら我を離るれば、何事をも爲し能はず。 6 人もし我に居らずば、枝のごとく外に棄てられて枯る、人々これを集め火に投げ入れて燒くなり。 7 汝等もし我に居り、わが言なんぢらに居らば、何にても望に隨ひて求めよ、さらば成らん。 8 なんぢら多くの果を結ばば、わが父は榮光を受け給ふべし、而して汝等わが弟子とならん。 9 父の我を愛し給ひしごとく、我も汝らを愛したり、わが愛に居れ。 10 なんぢら若しわが誡命をまもらば、我が愛にをらん、我わが父の誡命を守りて、その愛に居るがごとし。 11 我これらの事を語りたるは、我が喜悦の汝らに在り、かつ汝らの喜悦の滿されん爲なり。 12 わが誡命は是なり、わが汝らを愛せしごとく互に相愛せよ。 13 人その友のために己の生命を棄つる、之より大なる愛はなし。 14 汝等もし我が命ずる事をおこなはば、我が友なり。 15 今よりのち我なんぢらを僕といはず、僕は主人のなす事を知らざるなり。我なんぢらを友と呼べり、我が父に聽きし凡てのことを汝らに知らせたればなり。 16 汝ら我を選びしにあらず、我なんぢらを選べり。而して汝らの往きて果を結び、且その果の殘らんために、又おほよそ我が名によりて父に求むるものを、父の賜はんために汝らを立てたり。 17 これらの事を命ずるは、汝らの互に相愛せん爲なり。 18 世もし汝らを憎まば、汝等より先に我を憎みたることを知れ。 19 汝等もし世のものならば、世は己がものを愛するならん。汝らは世のものならず、我なんぢらを世より選びたり。この故に世は汝らを憎む。 20 わが汝らに「僕はその主人より大ならず」と告げし言をおぼえよ。人もし我を責めしならば、汝等をも責め、わが言を守りしならば、汝らの言をも守らん。 21 すべて此等のことを我が名の故に汝らに爲さん、それは我を遣し給ひし者を知らぬに因る。 22 われ來りて語らざりしならば、彼ら罪なかりしならん。されど今はその罪いひのがるべき樣なし。 23 我を憎むものは我が父をも憎むなり。 24 我もし誰もいまだ行はぬ事を彼らの中に行はざりしならば、彼ら罪なかりしならん。されど今ははや我をも我が父をも見たり、また憎みたり。 25 これは彼らの律法に「ひとびと故なくして我を憎めり」と録したる言の成就せん爲なり。 26 父の許より我が遣さんとする助主、すなはち父より出づる眞理の御靈のきたらんとき、我につきて證せん。 27 汝等もまた初より我とともに在りたれば證するなり。16 1 我これらの事を語りたるは、汝らの躓かざらん爲なり。 2 人なんぢらを除名すべし、然のみならず、汝らを殺す者みな自ら神に事ふと思ふとき來らん。 3 これらの事をなすは、父と我とを知らぬ故なり。 4 我これらの事を語りたるは、時いたりて我が斯く言ひしことを汝らの思ひいでん爲なり。初より此等のことを言はざりしは、我なんぢらと偕に在りし故なり。 5 今われを遣し給ひし者にゆく、然るに汝らの中、たれも我に「何處にゆく」と問ふ者なし。 6 唯これらの事を語りしによりて、憂なんぢらの心にみてり。 7 されど、われ實を汝らに告ぐ、わが去るは汝らの益なり。我さらずば助主なんぢらに來らじ、我ゆかば之を汝らに遣さん。 8 かれ來らんとき、世をして罪につき、義につき、審判につきて、過てるを認めしめん。 9 罪に就きてとは、彼ら我を信ぜぬに因りてなり。 10 義に就きてとは、われ父にゆき、汝ら今より我を見ぬに因りてなり。 11 審判に就きてとは、此の世の君さばかるるに因りてなり。 12 我なほ汝らに告ぐべき事あまたあれど、今なんぢら得耐へず。 13 されど彼すなはち眞理の御靈きたらん時、なんぢらを導きて眞理をことごとく悟らしめん。かれ己より語るにあらず、凡そ聞くところの事を語り、かつ來らんとする事どもを汝らに示さん。 14 彼はわが榮光を顯さん、それは我がものを受けて汝らに示すべければなり。 15 すべて父の有ち給ふものは我がものなり、此の故に我がものを受けて汝らに示さんと云へるなり。 16 暫くせば汝ら我を見ず、また暫くして我を見るべし』 17 ここに弟子たちのうち或者たがひに言ふ『「暫くせば我を見ず、また暫くして我を見るべし」と言ひ、かつ「父に往くによりて」と言ひ給へるは、如何なることぞ』 18 復いふ『この暫くとは如何なることぞ、我等その言ひ給ふところを知らず』 19 イエスその問はんと思へるを知りて言ひ給ふ『なんぢら「暫くせば我を見ず、また暫くして我を見るべし」と我が言ひしを尋ねあふか。 20 誠にまことに汝らに告ぐ、なんぢらは泣き悲しみ、世は喜ばん。汝ら憂ふべし、然れどその憂は喜悦とならん。 21 をんな産まんとする時は憂あり、その期いたるに因りてなり。子を産みてのちは苦痛をおぼえず、世に人の生れたる喜悦によりてなり。 22 斯く汝らも今は憂あり、されど我ふたたび汝らを見ん、その時なんぢらの心よろこぶべし、その喜悦を奪ふ者なし。 23 かの日には汝ら何事をも我に問ふまじ。誠にまことに汝らに告ぐ、汝等のすべて父に求むる物をば、我が名によりて賜ふべし。 24 なんぢら今までは何をも我が名によりて求めたることなし。求めよ、然らば受けん、而して汝らの喜悦みたさるべし。 25 我これらの事を譬にて語りたりしが、また譬にて語らず、明白に父のことを汝らに告ぐるとき來らん。 26 その日には汝等わが名によりて求めん。我は汝らの爲に父に請ふと言はず、 27 父みづから汝らを愛し給へばなり。これ汝等われを愛し、また我の父より出で來りしことを信じたるに因る。 28 われ父より出でて世にきたれり、また世を離れて父に往くなり』 29 弟子たち言ふ『視よ、今は明白に語りて聊かも譬をいひ給はず。 30 我ら今なんぢの知り給はぬ所なく、また人の汝に問ふを待ち給はぬことを知る。之によりて汝の神より出できたり給ひしことを信ず』 31 イエス答へ給ふ『なんぢら今、信ずるか。 32 視よ、なんぢら散されて各自おのが處にゆき、我をひとり遺すとき到らん、否すでに到れり。然れど我ひとり居るにあらず、父われと偕に在すなり。 33 此等のことを汝らに語りたるは、汝ら我に在りて平安を得んが爲なり。なんぢら世にありては患難あり、されど雄々しかれ。我すでに世に勝てり』